2011/04/30

2011.4月を振り返って。

4月が終わるので振り返ってみました。

4.1はお約束の新採用研修医・医員へのオリエンテーションで感染対策の話をしました。わずか15分ですけど。昨年はこの担当になって間もなかったので前任者のつくったスライドをそのまま時間内にしゃべるだけで精一杯でしたが、今年は短時間なら短時間でその中で何を伝えたいかを一所懸命考えました。

病院は病気を治す場所なので感染症という病気が起こることをなんとしても最小限に抑える努力を怠るわけにはいきません。そして、病院内で診療に関係して発生しうる病気の中で他を圧倒して最多のものが感染症であるわけです。
そして医療者は一個人として自分の身の安全を守る意識を持つことも必要ですが、それはそれだけが目的ではありません。医療者の脱落は医療資源の減少を意味するからです。こういう言い方は医療者をモノ扱いしているように誤解されるかもしれませんが、そうでなければ職員が病院の費用でインフルエンザワクチンを打つことが正当化できません。その費用は直接患者のために使ってもよいはずのお金なのですから。
まあ、そこまで露骨な言い方はしませんでしたが、患者を守ることが第一の責務であることをまず強調し、自分の身を守ることが医療を守り患者を守ることだということを最も身近な血液曝露への対策と院内の接触による感染予防対策を2つの大きな項目として説明しました。自分なりにポイントを押さえた講義ができたかなと思います。

4.22 85回日本感染症学会総会(東京)のシンポジウムで話をしてきました。
シンポジウムのテーマは「多施設感染症臨床研究の基盤作り」で私はトップでイントロダクションとして「大学病院・感染制御部としての院内感染症の多施設研究」とのタイトルで話をしました。自らの関わった成功例、失敗例を紹介し、その反省を踏まえて、我々がまずどのようなところから踏み出していくべきなのかについてプレゼンしてきました。

感染症は臨床研究が少ない分野だと思います。新薬の治験以外で、感染症の臨床研究、少なくとも多施設研究を行ったことのある医師は少ないんですね。それでも第一歩として出来るものはどんな研究なのかを考えて経験を積んでいくしかないと思います。
少々懸念していたのですが、シンポジウムは臨床研究はかくあるべし的な話に進んでしまいました。CRC、データセンター、研究の管理部門、EDT(?)…整備されるに越したことはないのは言うまでもありません。しかし、それらが整うのを待つ間、我々は何をすべきなのでしょう。基盤が整備できたときにいきなりうまくいくのでしょうか。現在の限られたリソースの中でできることを追求していく過程と平行してこれらが整備されていった暁に大きな研究も可能になるのだと思います。我々にないものを挙げるだけでなく、あるものをmaxまで活用する姿勢が必要だと思うのです。
菌株のサーベイランス的研究、診療録をレビューして集計する研究は直ぐにでもできるはずです。
「今後も症例を集積して…」は学会報告のお決まりの逃げ口上です。多施設で症例を集めればそれだけでずっと貴重な情報が得られるのに、と感じる学会発表はたくさんあります。Research Questionは臨床現場で考えているといっぱい出てきては忙しい業務の中で流れて行きます。それらをぶつけ合う機会をもっと作れば、それを解決するための1つの手段に多施設研究があるという着想にたどりつくはずです。学会や研究会はたくさんありますが、それらのセッション、シンポジウム、ワークショップがそのような機会としての役割を担うことは十分可能なのにこれまではそのようなナビゲートはほとんどしてこなかったのではないか、と最後のディスカッションで訴えました。少なくとも座長の先生を含めその場にいた何名かの方々には賛同を得られたように感じました。前日(4.21)に行われた、私も企画ワーキンググループの一員として関わった「症例から学ぶ感染症症例検討セミナー~臨床の疑問点から研究的考察へ~」は座長の一人の先生が委員長をしているもので、まさにこのような視点の企画です。11月に奈良で開催される次回セミナーは私が担当することが決まっていますので、今回のセミナーとこのシンポジウムで流れはじめた源流を少しでもしっかりしたものに近づけられるかを課題にしたいと今から模索しています。

4.24の翌々日曜は神戸で開催された薬剤師プログラムにて市中肺炎についてのレクチャを行いました。薬剤師は薬物治療のプロではあっても、その前提となる診断のプロではありません。しかし感染症の臨床において最もないがしろにされがちなのがまさにこの「診断」です。その意味でどのような内容を話すか、またまた一所懸命に考えました。薬剤師に期待される第一は「その薬剤の効果が(もちろん安全性も含め)十分に発揮するような使われ方がされているか」を追求することだと思います。一般的に安全性の高い抗菌薬においては投与量・回数さえ守れば効果が発揮できるか否かはやはり診断で決まります。ということは診断のプロではない薬剤師のもう一つの役目は、微妙な言い方になりますが、ともに医療を支える職業として医師に対して「その診断は正しいのか?」というプレッシャーを与えることではないかと思っています。たとえ診断のことがよくわからなくてもその薬剤が有効な使われ方をしているのかについて真剣になってほしいし、ということは必然的に診断の妥当性にも意識を傾けてほしいからです。それが医師が診断に対して真剣になることにつながる道のひとつだと思います。診断に対して必要で最小限の使用がなされていなければ効果が減弱していくのが抗菌薬の重要な特性のひとつですから、それに大いに関心を持って考え、それを行動に移してほしいと切に願っています。

願っているだけでなく、そのために私にできることは是非やりたいです。実はこの会の数日後、京都府内のある病院の薬剤師から京都でもこのプログラムと同じようなことができないか考えているという連絡をいただきました。自分に何ができるかわかりませんが、何かできるだろうかと考えること自体、私にとって実に嬉しいことです。

4.26は大阪歯科大病院の院内感染対策講習会に呼んでいただいて「感染症診療と院内感染対策の結びつき」というタイトルで話をしてきました。話し慣れた内容なのですが、このところ少しずつ構成を変えていっています。以前は「自分の話したい内容を話したいように話す」という感覚が前にでていたように思いますが、あるきっかけからそれを少し反省して、聞いてくれた人の記憶に残したいポイントは何か、そのためにはどのように話したらよいか、という観点に立って見直してみたからです。この見直し後のプレゼンのペース配分が十分身についていないのか、考えていたより若干時間がかかってしまいました。幸い同じ内容で話す機会が夏までに数回入っていますので、会心のデキといえるものにしたいです(あくまで現時点の、ですけど)。

年度が変わってますます気ぜわしくて萎えることもときにありますが、こうして振り返ってみるとまだまだやりたいこと、できることがあるぞと気持ちが新たになりました。
そのための活力を蓄えるための期間として連休があるんでしょうかね。