2010/06/08

第58回日本化学療法学会総会(長崎)でセミナーとシンポジウムをやってきました。

6.2は抗菌薬適正使用生涯教育セミナーのケーススタディのコメンテータをしました。ウイルス感染症がテーマというこのセミナーシリーズでは初の試みで、講師の先生方はどのレベルに合わせて話をしたものか、かなり苦慮された様子で、自分も聴きながら確かに難しいところだなと思いました。自分自身のケーススタディのコメントも含め、苦慮したものの結果として虻蜂取らずになってしまっていたような気がしました。企画会議のとき、各回のセミナーのレベルをBASICとADVANCEDに分けようということになり、今回はADVANCEDの設定でしたので、最初から開き直っておもいきりADVANCEDな内容にしてしまってもよかったのかもしれません。このあたりは難しいところなんだと感じてもらうのも生涯教育という大きな意味では大切なことだと思いますし。参加者は立場、職場が異なるわけですから誰もが同じレベルに到達することはそもそも無理な話です(例えば私でいえば、お恥ずかしながらHIVの細かいことはよくわかりませんし)。こういうケースがある、その時は自分のとこではここまでにしておいて、このような施設の医師に相談ないし紹介するべきなのだというようなことを知るのも大切だと思います。来月会議がありますので議論になるでしょうが、恐る恐るながら楽しみでもあります。

しかし、レジ感でもそうですけど、このような会で司会やコメンテータをするのは自分にとってすごくいい勉強になります。ポイントはどこにあるかを立場上前のめりで聴きながら考えていると、ケースの背景から感じられる普遍的な教訓が目の前に現れてくる、そんな感覚にとてもエキサイトする、というようなことがあるからです。実はこのセミナーのケーススタディは3回目なのですが、なんだか自分ばっかしやってていいのかなと少し申し訳ない気分にもなったりしてます。

6.4は「抗MRSA薬のTDMの標準化に向けて」というシンポジウムで、バンコマイシンのTDM標準化について話しました。気持ちとしては同薬にかぎったことではなく、ある薬にとって最も効果的な使用法は何か、そしてそれを標準法とすることがいかに大切かという普遍的な命題に対して、バンコマイシンを例にとって話したという感じです。標準があって応用(個別化)がある訳なので、まず土台と1階をしっかり建てよう、そうでないといつまでも2階はできないだろう、というところです。同薬はもっともデータの蓄積のある薬剤なのですが、それでもまだ各論的にはよくわからないところがたくさんあるものだと思いました。使用経験もTDM実績も豊富な薬なんですから、後ろ向き症例調査をやろうとすれば大きなNの研究ができるはずです。そう発言もしましたが、是非とも進めていきたいと思います。

また、感染症に限らず、診断と治療は密接な関係にあります。治療が先行することの多い感染症では、治療から診断へと向かう状況もたくさんあるわけで、そこで治療に不備があると診断がさらに遅れる危険が高まります。バンコマイシンでいうと、血中濃度を意識せずに治療が有効・無効と考えてもミスにつながりますし、目標濃度に到達したにもかかわらず効果がないということの意味に気づけなければ次の一手をミスったり遅れたりする危険性がでてきます。というようなことも話の中で触れることができてよかったです。このような認識はβラクタムを1日2回投与でどこが悪いの?と本気で考えている人ばかりだと理解されにくかったでしょうね。いろいろなことは互いにリンクしながら動いていくものだなと、そしてそのような動きのある時期にこの領域に関わることができて幸運だなと思っています。

今回、中日に時間があったのでほんのすこしだけですが観光しました。天気がよかったのもあって新緑と青い空と海がまばゆく、気持ちよいひとときを過ごすことができました。平日の昼間の人の少ない時にそういうところに行けるってのは実に贅沢ですな。